『192年5日』

　色々な人と仲良くなりたい、と僕は思っているのですけれど、焦ってはいけませんね。
　まずは、近しい所から交友を深めていく方が良いのではないかと思ったんです。
　と、いうわけで。ローク・エルグへ毎日行くことにしました。
　自分ルールその1、ですね。
　平日は必ずエルグに行く。
　その2は、まだないですけど。

　慣れというものは恐ろしいですね。
　先日はあんなに驚いていた不思議な土のことも、今では普通に思えてしまいます。



「人、いませんね」
「まあ、こんな時間だしね」
　僕はいつも大体、夕方からエルグに行くんですけど……人がいないんですよね。
　この日はたまたまジェヒューさんがいたので、一緒に仕事をさせてもらいました。
　ジェヒューさんが言うには、時間が悪いらしいです。
　もっと早い時間にエルグに来れば、たくさん人がいるって、そう言うんです。
「いや、でも。仕事した後に飲む酒って美味しいじゃないですか」
　どうして僕が夕方に仕事を始めるのかって言ったら、これが理由ですよ。
　お酒、好きなんです。あまり高いお酒は飲めませんけどね。
　ジェヒューさんは困ったような顔をして一度頷いた後、
「君、飲める口か！　じゃあ、今夜飲みに行こうか」
　って、そんな風に言ってくれました。気を使ってくれたのかもしれません。



　しかし、なのです。
　今日も酒場にはたくさん人がいましたけれど、マスターが来なかったのです……ああ。

『192年6日』

　この日はお昼にティルグへ行ってきました。
　ラモンさんに基本技は教えてもらっていたので、練習試合するのもいいかな、って。
　まあ、結果から言うと試合はできませんでしたね。
　そもそも僕はまだ弱いので（ほとんど訓練していないし）、丁度良かったのかも。



　じゃあ、何をしてのかって言うと、新しい技を伝授してもらったんです！
　教えてくれたのは、エリアーヌ・シャテルさん。
　僕と同じ年なのに、シルフィス・ティルグに所属しているんですよ。すごい。
　新しい技、ちゃんと覚えました。練習試合、してみたいですね。

　それで、今日も夕方になってローク・エルグへ行きました。
　でも、今日は誰とも会えませんでした。残念。
　仕方がないので、酒場が開くまで仕事をして、今日こそは！　と思いながら足を運んで。



　そうしたら、どうしたことか、今日は酒場にも人がいませんでした。マスターも。
　みなさん、国立競技場へエレナ騎士杯を見に行ったのかもしれませんね。
 　酒場にいたのは、ロージー・ヴィッカーさんと、リュー・ワイズマンさん。
　二人とも同じローク・エルグの仲間です。
　……まあ、仕事場で会ったことはまだないんですけれど。
「今日は、人少ないね」と僕。
「マスターがいないなんて、この酒場、アレだよな」とリューさん。
「きっともう少ししたら、来るわよ」とロージーさん。
「でも、3日も、昨日も、マスター来なかったよね」と僕。
「まあ、酒場はここだけじゃないし……でもなぁ」とリューさん。
「……帰りましょっか」とロージーさん。
　というわけで、この日は帰りました。
　僕たちが帰った後に、人が来たのか、マスターが来たのか、それは分かりません。

『192年7日』

　今日は"放生の日"です。
　我がローク・エルグでは、ココモの種まきをするらしいです。
　ココモは、ワインの原料となり、酒場などで振舞われることになるのです。
　酒好きの僕としては、何としてでも頑張らなければ。と思うのです。



　というわけで、種をまいてきました。種の袋にココモの絵が書いてあります。
　エルグ長のジェヒューさんが言うには、虫が付きやすいそうです。
　毎日の手入れを頑張っていこうと思います。
　といっても、僕が行く頃には他の誰かが手入れしちゃってるかな。

　この日はそのままエルグで仕事をしていました。
　行事の日、ということもあってたくさんの人がいて。
　やっぱり昼間なら働いている人がいるんじゃないか、って思っちゃうくらいに。
　そして夜は、もちろん。酒場です。ゴー！



　今日はマスターが来ていました。
　というわけで、早速ココモ・ワインを注文しました。
　お金がないので、一番安いお酒でしたけど、美味しかったです。
　マスターは、リゼット・カラシコフさん。元気一杯に注文を取っていました。
　明日からはエレナ剣士杯を見に行く予定だけど、毎日来てくれているといいな。
　そんな風に思いました。酔った頭で。
　こんな風に、僕の1日は終わって行くのでした。